基軸通貨国によるゼロ金利強制

基軸通貨国、現在でいえばアメリカ、がゼロ金利を実施したら、他の国に何が起こるかを考えて見ます。

大前提として非基軸通貨国は、資本移動をコントロールするための為替取引規制を行っていないものとします。

まず、円のレートと金利の関係を整理しておきます。

以下、数値例で考えますので、いくつか仮定を置きます。

ケース1

仮定1

1年後のドルと円の直物の予想レートは1ドル=90円であると仮定します。

仮定2

ドル金利は20%とします。

この条件でドルで資金を運用すると、1ドルは1年後に1.2ドルとなります。この時点でドルを円に変えれば、1.2ドル×90円=108円が得られると予想されます。

現在のドルの直物レートが100円であり、円の金利が8%であれば、資金運用目的でのドル売り・円買いは発生しません。

こんな理由からです。今、1ドルを100円に替え、8%で運用すると1年後には108円です。ドルのまま1年間運用して、それから両替しても108円。結果は同じです。あえて今ドルを円に替える必要はありません。

さて、こういうことであれば、もし、現在のレートを100円にしたければ円の金利を8%にすればいいということを意味しています。金利を操作することにより、現在の直物レートを自分の望む水準にすることができるのです。

資源価格の高騰の影響を遮断するため、円のレートを引き上げたいと考えたとします。この場合、金利を引き上げればいいのです。金利を12%に引き上げたとします。すると今ドルを1ドル=100円のレートで交換して、その100円を円金利で運用すると112円になります。ドルのままドル金利で運用して、1年後、1ドル=90円で換金し、108円を手にするよりも、4円得です。みんなドルを売って円を買い始めます。すると円に対する需要が増えるので円のレートは上昇していきます。でも、無限に上がり続けることはありません。円のレートが上昇して、例えば98円になると、12%の円金利で1年運用した場合には、109円76銭になり、ドルで運用した場合の108円との差は1円76銭に減ります。そして96円43銭になると108円になり、差はゼロになります。つまり、12%に金利を引き上げた時には、円レートは1ドル=96円43銭担って安定します。さらにレートを上げたければもっと金利を上げる必要があります。理論的には金利を上げ続ければ、円のレートを無限に上げることができます。実際には超高金利は国内の景気に悪影響を与えるでしょうから、無限には引き上げられませんが。

逆に、輸出促進のために円レートを引き下げたいときにどうすればいいでしょうか?答えは金利の引き下げです。

金利を4%にすると、1ドルを100円に替え、1年間運用しても104円にしかなりません。それならドルのまま運用し、1年後に交換して108円を手に入れたほうが得です。今ドル売り・円買いをするのは損ですから、誰もそんなことはしません。しかし、今、円をドルに替えて、ドル金利で運用し、1年後円に換えると4円得をします。円売り・ドル買いが始まります。円レートは下がります。この場合もちょうど損得なしのレートが存在します。103円85銭です。もし、さらに円安にしたければ、さらに金利を下げればいいのです。

ここまでは円レートを上げるのと同じ議論が成立します。しかし、大きな差があります。金利操作により無限にレートを下げることはできません。なぜなら、金利にはゼロという下限が存在するからです。ゼロ金利政策を実施しても、レートは108円にまで下がるだけです。これが大きな違いです。

さて、本論に入ります。基軸通貨国がゼロ金利政策を実施したとき、非基軸通貨国には金利を自由に決め、レートを操作する余地があるでしょうか?

ケース2

仮定1

1年後のドルと円の直物の予想レートは1ドル=90円であると仮定します。これは変えません。

仮定2

ドル金利は0%とします。これが大きな違いです。

この条件でドルで資金を運用しても1ドルは1年後にも1ドルのままです。この時点でドルを円に変えれば、1ドル×90円=90円が得られると予想されます。

ケース1と同じように現在のドルの直物レートが100円であり、円の金利が8%であれば、資金運用目的でのドル売り・円買いが発生します。

今、1ドルを100円に替え、8%で運用すると1年後には108円です。ドルのまま1年間運用して、それから両替したら90円。どう考えてもてもドルを円に変えて運用したほうが得です。ドルが売られ円のレートは高くなります。無限に高くなるのではありません。円金利が8%であれば83円33銭で損得なしになります。このように円高にしたいのであれば問題はありません。しかし、円レートをここまで高くしたくないとすれば、円金利を下げる必要があります。4%であれば1ドル86円54銭になります。

問題はいくらでも金利を下げられる訳ではないことです。金利にゼロという下限があるからです。日本もゼロ金利にするとレートはどうなるでしょうか?1ドル=90円です。

もし、レートを90円以下に保ちたいのであれば、日本はゼロ金利を実施するほかありません。金利選択の余地はありません。

アメリカがゼロ金利を実施したときには、日本には円金利をゼロにするか、円高を甘受するかどちらか二つの選択しかできません。円高を甘受できないということであれば、ゼロ金利とするしかありません。日銀が金利を操作する余地はゼロです。アメリカは日本にゼロ金利を強制できるのです。

白川総裁や政策審議委員には給料を払うべきですが、実際に日本の金利を決めるのはバーナンキ議長とFRBのメンバーです。「日本の金利も決めてやっているのだから、俺たちにも給料を払え。当然円で。」とは言ってこないでしょうけれども。

この金利と円レートが、心地よいものではないとしたらどうすればいいでしょうか。「為替相場での介入。ドル買い支え」と答える方もいるかもしれません。しかし、予想レートが変わらないのであれば、無限にドル売りが出てきます。こういう事情があるからです。「実際問題として、無限のドル買い・円売りは不可能だ。すると、ドルを売り浴びせればいつかはドル防衛ができなくなる。ドル防衛が崩れた瞬間に円は一気に切り上がる。そこでドルを買えば収益率は著しく高い。」と判断して投機を始める人がいるからです。

それでも何とかしたければどうすればいいのでしょう?答えは、ただ一つ。1年後の予想レートを変えるのです。もし、予想レートが1ドル=90円から、1ドル100円に変わればドル金利、円金利ともにゼロのとき、円の直物レートは90円ではなく100円になります。

では、どうやって予想レートを変えればいいのでしょうか?それは、「これまでと条件が変わらなくても、1年後の日本の輸入が増え、日本の貿易収支・経常収支が悪化する」という予想を形成することです。そのためには、持続的に輸入を増やす決意を行動で示す必要があります。そのために有効なのが、政府による原油の輸入とと備蓄です原油に限らず、希少金属でもかまいません。このような輸入には上限がありません。金利の低いので負担もたいしたことはありません。資源小国の日本がいざという場合に備えて、資源を備蓄するのは合理的な行動なので、日本がいつかそれを止めるだろうとは予測しにくいのです。

これが、「原油価格前年同月比2割値下がり。原油を買おう。」で原油の輸入・備蓄のほうが「為替市場での介入より効果的です。」と書いた理由です。 

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