社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その39

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その38」の続きです。

今回から、「第3章 資産価格決定理論と代表的個人」に入ります。テキストに書かれているとおり、「代表的個人モデルが多くの主体が取引を行っている経済とどのような対応関係にあるのかを明らかにすること」、「資産価格決定メカニズムを新古典派モデルの中で解明すること」が目標です。

まず、「3.1 資産価格決定モデルの基本的な考え方」からです。

あらかじめ、この理論の流れを簡単に説明しておきます。

1 まず、個人の選好とその時点での消費水準(パターン)に基づき現在財と将来財の限界効用が決まります。

2 すると、現在財と将来財の限界効用の比率が単純に決まります。この比率を現在財と将来財の限界代替率と呼びます。

3 個人が効用を極大化すると、この現在財と将来財の限界代替率は現在財と将来財の価格比(相対価格)に等しくなります。

4 現在財と将来財の価格比(相対価格)が、割引率です。

5 消費者が裁定機会を取り尽くした状況では、ある資産の価格は、その資産の将来収益をこの割引率で割り引いた現在価値です。

つまり、資産の価格を決めるのは何か?と問われれば、

(1) その時点での消費水準

(2) その財の将来収益

(3) 個人の選好

であるということです。このうち(2)と(3)が根本的な要因です。収益とは何であるかは、後で説明します。

では、説明を始めます。

最初に置かれている「3.1.1 インカム・ゲインとキャピタル・ゲイン」は、特に説明の必要もないと思います。粗キャピタル・ゲインを使うことに注意してください。もう一つ、貨幣にはインカム・ゲインがないことにも注意が必要です。

次の「3.1.2 割引現在価値」でも、純割引率と粗割引率が区別され、単に「割引率」と書かれている場合、粗割引率の方を指すことに注意してください。また、割引率の逆数(1をある数で割ったものが、その数の逆数です。ある数とその逆数を掛けると1になります。)を割引因子(discount factor)と呼びます。

(3.1)式は1回だけ利子の支払い、d、のある債券の価格の決定式です。ここでの価格qはこの債券の現在の価格です。この式に疑問を持つ社会人は多いと思います。普通債券は利子が支払われ、かつ、元本が償還されます。したがって、元本も粗割引率で割り引いて現在の価格をもとめなければなりません。この式では利子だけが割り引かれています。テキストにある「将来一度限りd単位の利子配当がある債券」というのは、「将来一度限りd単位の利子が支払われるだけで元本の償還はない債券」であると言うことです。この債券の「将来の収益」はdだけなのです。理解しにくければdを将来支払われる元利合計と考えてください。

なお、「債券」という言葉を用いるなら、「利子配当がある」少し妙な気がします。「利子の支払い」と読み替えた方が理解しやすいと思います。

ここで、少し単位の話をしたいと思います。(3.1)式で出てくるrの単位、あるいは1+rの単位といっても良いのですが、は何でしょうか? これは無名数、単なる数です。1台とか、1円とかそういう単位のある数字ではありません。すると、qとdは同じ単位を持つということになります。

「d単位の利子」、「債券の価格q」という表現が用いられていますが、厳密に言えば、「債券1単位の価格q」です。

さて、このd単位とあるのは、いったい何のd単位なのでしょうか?債券という表現に引きずられて貨幣d単位と受け止めてしまうかもしれません。そうではありません。実は、財と考えられているのです。これは、「純割引率rは当該債券の実質利子率に等しい。」という表現から分かります。もし、利子配当が貨幣d単位であれば、「名目利子率」でなければなりません。

r、r+1が無名数ですから、債券の価格も財で計られます。つまり、将来に財d単位受け取る権利を持つ債券1単位は現在の財q単位に相当するということです。

これが割引現在価値の考え方です。

ここで十実であるということは非常に重要です。その理由は次回説明します。

この考え方に基づき、割引率がどのように決まるのかを、三番目の「3.1.3 割引率の決定メカニズム」で考えます。

ここでは、現在財と将来財という概念が出てきます。物理的には全く同じ財が、現在利用できるのか、将来になって初めて利用できるのかによって別な財として取り扱われます。現在財は一つしかありませんが、将来財はいつ利用可能になるのかによって、さらに区別されます。

この財の種類毎に現在財市場と将来財市場が存在します。なお、将来財市場では代金の支払いは現在行われ、財の引き渡しは将来行われます。代金を受け取る側の売り手には契約締結後支払いを受けられないというリスクは存在しません。しかし、買い手の側には、支払いをしたのに、将来、商品を受け取れるべき時に受け取れないというリスクが発生します。しかし、この問題は「3.3 不確実性と資産価格」で取り扱われ、ここではそのようなリスクは存在しないという前提で議論が進められます。

さて、明日d2単位の将来財が利子として支払われる債券1単位の現在の価格q2がどう決まるかを考えます。

1単位の将来財の現在の価格をp2とします。また、同じ種類の1単位の現在財の価格をp1とします。

するとd2単位の将来財の現在の価値は、d2×p2です。この価値が、この債券1単位にあります。こ債券の価格を現在財の価格で割るとこの債券が現在財何単位に相当するかが分かります。この債券の1単位の価値は(d2×p2÷p1)単位の現在財になります。この価値をqとすると、q≡d2×p2÷p1=d2÷(p1÷p2)です。

言い換えると、将来財d2単位を受け取る権利を持つ債券の価値は現在財q単位に相当するということです。

したがって、3.1.2で定義された粗割引率1+rはp2÷p1、つまり将来財と現在財の相対価格に等しいことが分かります。

(続く)

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