不平等、格差の分析手法 対数標準偏差 シュロックス分解

対数標準偏差(Mean Log Deviation : MLD)による不平等の要因分解

1 対数標準偏差の定義

いま、n個の主体(例えば家計)があるとします。個々の主体の所得(他のもの、例えば、賃金、資産でも同じです。)この所得が、y1,y2,・・・・・ykであるとします。また、その所得の平均がμ、分散がσの2乗とします。この場合、対数標準偏差(Mean Log Deviation : MLD)は、次のように定義されます。

MLD≡(1/n)Σln(μ/yi)・・・(1)

ここでΣはi=1~nの合計。

主体間で所得に格差がなければ、すべてのiについてμ=yiです。このとき、すべてのiについてln(μ/yi)=ln1=0です。すると、Σln(μ/yi) =0です。したがって、 MLD=0です。

2 MLDによる格差の分解

MLDを利用すると、母集団をいくつかのグループに分けた場合、母集団の格差をグループ内の格差とグループ間の格差に分解し尽くすことができます。この分解し尽くせるのがMLDの長所です。

母集団をk個のグループに分割します。この場合、各グループには少なくとも1つの主体が所属しているとします。

Njをグループjに属する主体の数とします。すべてのjについて、nj≠0です。

また、yijをグループjに属する主体iの収入とします。さらに、μjをグループjの平均収入とします。

次の式が成立します。

Σnj=n・・・(2)

Σ(nj×μj)=∑nμ・・・(3)

MLDの定義にしたがって、各グループの対数標準偏差を次のように計算することができます。

MLDj=(1/n)Σln(μj/yij) ・・・(4)

また、グループjの主体の数が全体に占める割合vjは、次のように計算されます

vj=nj/n・・・(5)

次の式が成立します。

MLD=Σvjln(μ/μj)+ΣvjMLDj

ここでΣはj=1~kの合計。

この式は、「母集団をいくつかのグループに分けた場合、母集団の格差をグループ内の格差とグループ間の格差に分解し尽く」されることを示すものです。

(証明)

MLD≡(1/n)Σln(μ/yi)   (Σはi=1~nの合計)

=(1/n) Σ(lnμ-lnyi)      (ln(x/y)=lnx- lnyであるので) 

=(1/n) Σ(lnμ)-(1/n) Σ(lnyi) 

=(n/n)(lnμ)-(1/n) Σ(lnyi)   (第1項は平均μをn回足したものなので)

=(Σnj/n)(lnμ)-(1/n) Σ(lnyi)・・・(6)  ((2)式を第1項に代入)

((6)式の第2項はすべての主体の収入の対数を足したものです。これを、k個のグループに属する主体ごとに区分して、それを足し上げても結果は変わらないので。)

=(Σnj/n)(lnμ)-(1/n) Σ(∑lnyij)・・・(7)

(7)式のを∑は第1グループから第kグループまでの合計です。このうちJ=m≦kである第mグループに関する項を取り出すと次のようになります。

(nm/n)(lnμ)-(1/n) Σ(lnyim)

=(nm/n)(lnμ)-(nm/n) (1/nm) Σ(lnyim) (nm ≠0なので、1/n =(nm/n) (1/nm))

=(nm/n){(lnμ)- (1/nm) Σ(lnyim)}・・・(8)

ここで、Σは第mグループに属する主体imについての合計です。

(8)の{}内にこのグループの平均収入μjの対数を足し、そして引きます。結果は(8)式と同じですから。)

(nm/n){(lnμ)- (1/nm) Σ(lnyim)}

=(nm/n){(lnμ)- (1/nm) Σ(lnyim)+lnμm-lnμm}

=(nm/n)〔{(lnμ) -lnμm}+{lnμm-(1/nm) Σ(lnyim)}〕 (項を並べ替えます。)

=(nm/n)〔(lnμ/μm)+{lnμm-(1/nm) Σ(lnyim)}〕   (lny-lnx=ln(y/x)なので。) 

=(nm/n)〔(lnμ/μm)+(1/nm){nmlnμm-Σ(lnyim)}〕

nmlnμmはグループmに属する主体の数nmにこのグループの平均所得を掛けたものです。Σ(lnyim)グループmに属する主体一つ一つの所得の対数を足したものなのでlny1m, lny2m・・・とグループmに属する主体の数nm個の項を足したもの。足し算の形にすると、両者の項の数は同じです。lnμm-lnyim=ln(μm/yim)ですから、

=(nm/n)〔(lnμ/μm)+(1/nm)∑ln(μm/yim)〕

=(nm/n)(lnμ/μm)+(nm/n) (1/nm)∑ln(μm/yim)・・・(9)

(9)式の第2項のアンダーライン部分は第mグループの収入の対数標準偏差MLDmです。

すると、次のようになります。

=(nm/n)(lnμ/μm)+(nm/n) MLDm

=vm(lnμ/μm)+vm ) MLDm

この式の第1項のμ/μmはグループmの平均所得μmで全体の平均所得μで割ったものです。これはこのグループの平均所得が全体の平均所得からどの程度、離れているかの指標です。

すべての項に第m項と同じ操作を加えます。

すると、全体の対数標準偏差(MLD)は、各グループの平均所得が全体の平均所得からどの程度離れているかを示す項をおのおののグループの主体の数で加重平均したものと、各グループの収入の対数標準偏差をおのおののグループの主体の数で加重平均したものとの和として次のように表されます。

MLD=∑vj(lnμ/μj)+∑vj MLDj ・・・(10)

ここでΣはj=1~kの合計。      (証明終わり。)

3 MLDによる格差の時系列変化の分解

t期とt+1期の全体の対数標準偏差(MLD)の変化を分解することを考えます。

(10)式から

MLDt=∑(nj/nt)(lnμ/μjt)+∑(nj/nt) MLDjt・・・(11)

MLDt+1=∑(nj/nt+1)(lnμ/μjt+1)+∑(nj/nt+1) MLDjt+1・・・(12)

となります。

簡略化のため、次のように定義します。

全体の対数標準偏差(MLD)の変化

ΔMLD≡MLDt+1-MLDt・・・(10)

あるグループmの対数標準偏差(MLD)の変化

ΔMLDm≡(MLDmt+1-MLDmt)/2・・・(11)

あるグループmの対数標準偏差(MLD)の平均

avMLDm≡(MLDmt+1+MLDmt)/2・・・(12)

あるグループmの平均所得の全体の平均所得との比の対数の変化

Δlnμ/μm≡lnμ/μmt+1-lnμ/μmt・・・(13)

あるグループmのの平均所得の全体の平均所得との比の対数の平均

avlnμ/μm≡(lnμ/μmt+1+lnμ/μmt)/2・・・(13)

あるグループmに属する主体の全体に占める割合の変化

Δnm/n≡nm/nt+1-nm/nt・・・(14)

あるグループmに属する主体の全体に占める割合の平均

avlnnm/n≡(nm/nt+1+nm/nt)/2・・・(15)

「全体の対数標準偏差(MLD)の変化(10)」を「各グループの対数標準偏差(MLDm)の変化(11)」による部分、「各グループの平均所得の全体の平均所得との比の対数の変化(13)」による部分、そして「各グループに属する主体の全体に占める割合の変化(14)」による部分に分解するのが目的です。

このために、次の恒等式を利用します。

AY-BX≡(A+B)/2×(X-Y)-(A-B)/2×(X+Y)・・・(16)

(10)、(11)、(12)式から、次の式が得られます。

ΔMLD≡MLDt+1-MLDt

=〔∑(nj/nt+1)(lnμ/μjt+1)+∑(nj/nt+1) MLDjt+1〕-〔∑(nj/nt)(ln

μ/μjt)+∑(nj/nt) MLDjt〕・・・(17)

(17)式の項を並べ替え、平均所得の比の項とMLDjの項にまとめると、次のようになります。

=〔∑(nj/nt+1)(lnμ/μjt+1)-∑(nj/nt)(lnμ/μjt)〕+〔∑(nj/nt+1) MLDjt+1〕-∑(nj/nt) MLDjt〕・・・(18)

この式からグループmに関する項を取り出すと、次のようなものです。

〔(nm/nt+1)(lnμ/μmt+1)-(nm/nt)(lnμ/μmt)〕+〔(nm/nt+1) MLDmt+1〕-(nm/nt) MLDmt〕・・・(19)

この式の二つの項は、それぞれ、ちょうどAY-BXの形をしています。そこで、(16)式を利用して整理します。

第1項は、次のように変形できます。

〔(nm/nt+1)+(nm/nt)〕/2×〔 (lnμ/μmt+1)- (lnμ/μmt)〕+

〔(nm/nt+1) -(nm/nt) 〕/2 ×〔(lnμ/μmt+1)+ (lnμ/μmt)〕

=avnm/n×Δlnμ/μm+ 〔Δnm/n〕/2 ×(avμ/μm)×2

=avnm/n×Δlnμ/μm+ Δnm/n ×avμ/μm・・・(20)

第2項は、次のように変形できます。

〔(nm/nt+1)+(nm/nt)〕/2×〔MLDmt+1-MLDmt〕

+〔(nm/nt+1)-(nm/nt) 〕/2×〔MLDmt+1+ MLDmt〕

=avnm/n×ΔMLDm

+Δnm/n/2×avMLDm×2

=avnm/n×ΔMLDm+Δnm/n×avMLDm・・・(21)

(19)式は(20)式と(21)式を足したものですから、(18)式のグループmに関する項は、次の式になります。

avnm/n×Δlnμ/μm+ Δnm/n ×avμ/μm+avnm/n×ΔMLDm+Δnm/n×avMLDm・・・(22)

(22)式はすべてのグループj (j=1~k)について成立します。

(18)式は(22)式をすべてのグループj (j=1~k)について合計したものです。したがって、次の式が成立します。

ΔMLD=Σavnj/n×Δlnμ/μm+ ΣΔnj/n ×avμ/μj+Σavnj/n×ΔMLDj+ΣΔnj/n×avMLDj

=Σavnj/n×Δlnμ/μm+Σavnj/n×ΔMLDj+ ΣΔnj/n ×avμ/μj+ΣΔnj/n×avMLDj

=Σavnj/n×ΔMLDj+Σavnj/n×Δlnμ/μm+ (avμ/μj+avMLDj) ×ΣΔnj/n・・・(23)

(23)式の第1項は「各グループの対数標準偏差(MLDm)の変化(11)」による部分、第2項は「各グループの平均所得の全体の平均所得との比の対数の変化(13)」による部分、そして第3項は「各グループに属する主体の全体に占める割合の変化(14)」による部分です。

このように全体の対数標準偏差(MLD)の変化を、この3つの部分に分解し尽くすことができます。

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