社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その30
「社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その29」の続きです。
2.3.6 実物的景気循環論への応用
生産関数に対する一回限りの技術的ショックがあると均衡経路が変化し、その結果、定常状態に向かう経済の動きが単調なものではなくなります。これが景気循環として観察されると理解するのです。
これに対して、生産関数の連続的なプラスの変化、つまり継続する技術進歩があった場合には、定常状態が持続的に変化し、定常状態での生産と消費が持続的に増加します。つまり、経済成長が起こります。
技術的ショックに、二つの局面を考えます。一つはショックが一時的なものか、永続するものか。経済主体と関わりないものです。もう一つは、それが経済主体によって予想されていたものか、予想されていなかったものかです。組み合わせは、4通りです。
さて、この技術的ショックを明示するためにこれまでの生産関数(2.14)式を(2.49)式に変更します。Aの変化が技術的ショックを示します。Aが大きくなると同じ一人当たり資本で生産量が増加します。このとき定常状態はどのように変わるでしょうか?また、均衡経路はどのように変化するか?これが問題です。
今回は、定常状態がどのように変化するかを考えます。この変化はショックが一時的なものであるかにも、予想されたものであるかどうかにも影響を受けません。これらが影響するのは定常状態に到達するまでの均衡経路です。
定常状態は資本kが一定かつ消費cが一定である状態でした。図では⊿k=0線と⊿c=0線の交点です。Aが増加したとき⊿k=0線と⊿c=0線はどのように変化するでしょうか?復習を兼ねて説明していきますので、テキストの関係するページを読み直してください。
1 ⊿k=0線の変化
まず、⊿k=0線の変化から検討しましょう。
元々この線は、定差方程式体系((2.31)式)の資本の変化を示している式、(2.31.a)式から導かれるものでした。資本に変化がない、つまり⊿k=0という条件は、kt-1=kt=kです。これを(2.31.a)式に代入します。
k=(1-δ)k+f(k)-c
となります。右辺第1項の括弧をはずします。
k=k-δk+f(k)-c
両辺にkがあるのでこれを相殺します。
0=-δk+f(k)-c
消費の項を移項し、右辺の項の順序を入れ替えます。
c=f(k)-δk (2.32)
これが⊿k=0線です。
この式が意味するのは、生産されたもの(f(k))から資本減耗の回復に当てられる部分(-δk)を差し引いたもの(右辺)がすべて消費(c)に当てられると、資本には変化が生じないということでした。
さて、ここで生産関数を(2.49)式に変えると、⊿k=0線は、
c=Af(k)-δk
となります。
f(k)>0ですから、Aが増加すると右辺は増加します。これに対応して左辺のcも増加します。
これを図で示すと、同じ資本に対する消費が大きくなりますので、⊿k=0線は上へシフトします。
経済学的にいえば、同じ資本に対して生産量が増加し、資本減耗分は変化しませんから、生産量が増加しただけ消費を増やさないと、次期の資本が増加します。資本を一定に保つためには消費が増加しなければなりません。
2 Δc=0戦の変化
元のこの線は、(2.31.b)式から導かれたものでした。復習です。
資本の時と同じように、消費に変化がないという条件は、ct-1=ct=cです。これを(2.31.b)式に代入します。すると、
u‘(c)=(1+f’(k)-δ)/(1+ρ)×u‘(c)
となります。両辺をu‘(c)で割り(ここでu‘(c)≠0を仮定します。消費が増えれば効用は増加しますから、これは普通は問題ありません。u‘(c)=0となるのは消費が増えても効用が増加しない、つまり消費が飽和に達している場合です。)、さらに両辺に(1+ρ)をかけます。
1+ρ=1+f’(k)-δ
両辺から1を差し引きます。
ρ=f’(k)-δ
整理すると、こうなります。
f’(k)=ρ+δ (2.33)
これが、元のΔc=0線でした。
さて、生産関数を置き換えると、(2.33)式は
Af’(k)=ρ+δ
となります。
代表的個人の時間選好率ρも資本の減耗率δも外生で、Aが変化しても一定です。Aが大きくなったとき等号を維持するためには、f’(k)が小さくならなければなりません。限界生産力は逓減すると仮定しているので、f’(k)を小さくするためには、一人当たり資本kが大きくならなければなりません。
これを図で示すと、技術的ショックでAが大きくなると、Δc=0線は右にシフトします。
3 定常状態の変化
⊿k=0線が上に、Δc=0線が右にシフトしますから、その交点である定常状態は右上方にシフトします。より大きな資本とより大きな消費で定常状態を続けるのです。
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