「規制権限の分権と二重行政」について

すなはらさんが、「規制権限の分権と二重行政」でこんなことを書かれています。

実は,労働紛争を解決するために設置された機関としては,「都道府県労働委員会」という都道府県の機関も存在します。しかし,この労働委員会と労働局の違いはかなり難しい。例えば両方とも個別労使紛争のあっせんを行うことができるのですが,次の表で見る限りでは,あっせん(審判者)の性格が少し違うくらいしかその違いが見出せません。いやもちろん他に労働局しかやっていない機能とか,労働委員会しかやっていない機能とかあるのでしょうけども。別に僕はここで「こんなに同じようなことをしてるじゃないか」と二重行政の批判をしたいわけではありません,念のため。もちろんそういう考え方もあるんでしょうが,上記の規制主体と被規制主体の関係という問題を考えたときには,一概にこの手の二重行政が全て悪いと言えるわけではないんじゃないかと思われます。ただ,僕が読んだケースでは都道府県労働委員会は活用されなかった模様ですが,少なくとも両者の関係が不明なままにほったらかしにしておくような二重行政はちょっといかがなものではないかと思われるわけで,ここの整理が必要なのは事実かな,とは思います。要するに,出先機関の整理統合を言うときに,どういうかたちで二重行政になっているのか,また,規制主体と被規制主体の関係を念頭に置いたときにどのように機能を整理すればよいのか,という視点は必要なのではないかと思ったりします,って話なのですが。

(引用終わり)

うーん、賛成しかねるところと、なるほどと思いつつ、思考を刺激されるところと。

まず、賛成しかねるところ。

個別労働紛争について、誤解があるように思います。個別労働紛争については、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO112.html)で体系付けられているので、「整理」は行われていると考えていいんじゃないかと思います。

読んでいただくと分かるのですが、こんなシステムです。

1 労働局長(とその委任を受けた紛争調停委員会)は、必ず紛争解決の促進のための業務を行う。労働局は必ず都道府県に一つ設けられていますし、紛争調停委員会も必ず存在しています。

2 「地方公共団体は、国の施策と相まって、当該地域の実情に応じ、個別労働関係紛争を未然に防止し、及び個別労働関係紛争の自主的な解決を促進するため、労働者、求職者又は事業主に対する情報の提供、相談、あっせんその他の必要な施策を推進するように努める」のです。この中で本来は集団的労使関係の問題を取り扱う都道府県労働委員会都道府県知事の委任を受けて、このような事務を行う場合もある。

要するに、個別労働関係紛争の解決に援助してくれるよう求められれば、労働局長(国)は必ず対応する、都道府県は(予算や人員、能力、行政施策の優先度に応じて)対応するように努める、こういう整理です。そして、都道府県がやる場合に、知事部局でやることもできるし、知事が労働委員会に委任することもできることになっています。

重要なのは、労働局長に援助を求めたことを理由として事業主が労働者に対して不利益な取り扱いをしてはならないこと、紛争調停委員会の斡旋している間は、時効が中断するということでしょう。

国は、都道府県がどの程度、あるいはどんなやり方で個別労働関係紛争の予防や解決を促進するか、細かな指定はしないで、自由に任せています。「最低限努力はしてくださいね。」というだけです。

これは、地方自治という考え方からいえば最大限都道府県の自主性を尊重しているので、ある意味、理想的な対応でしょう。

しかし、自主性を認めれば認めるほど、今度は、労働者や企業が個別的労働関係の紛争の解決の援助を求めた場合、都道府県の対応が期待に応える水準ではないという可能性が出てきてしまいます。そこで、国は全国どこでもそういう援助を行う体制を作っておく。これによって、国民の期待には応えられるというわけです。また、国が対応しているから、都道府県はいろいろな選択ができるという側面もあります。

これは、普通考えられている二重行政とはいえないんじゃないかという気がします。同じことに二重の「規制」がかかっていて、何かしようとすると、国と都道府県に許可を求められるというわけではありません。そもそも、規制でゃないでしょう。サービスです。そして、どちらに援助を頼むかは自由に選択できます。ですから「二重」とはいえないでしょう。

(つづく)

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