社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その10

社会人のための『新しいマクロ経済学』解説 その9」に続いて、今回は「2.2.4 家計の異時点間の資源配分」を解説します。 「2.2.2 生産関数と労働市場」、「2.2.3 企業の行動」で家計がどのような所得を得るかが明らかにされました。これから、家計の予算制約式を導き出します。この予算制約の下で「2.2.1 永遠に生き続ける代表的個人」で示した家計の目的、効用の最大化を行うためには、どのような行動を家計がとるかを示します。発想としては、普通の静学のものと変わりがありません。 さて、いくつかの留意点があります。 まず、第一に、ここで「資本」と呼ばれているものは、すべて物的資本、つまりこのテキストで想定されている唯一の財であることに留意してください。また、「レンタル料」も財です。賃金収入も財です。「消費」も財の消費です。「減価償却」という会計的な表現が使われていますが、物的資本の減耗なのでこれも財です。 (2.19)式の各項はすべて財です。そうでなければ足したり引いたりといった操作はできませんし、等しいという概念が成立しません。 第二の留意点は、家計は賃金の水準如何に関わらず企業に労働を供給すると仮定されていることです。(この仮定をより現実的なものにすることもできます。「労働供給の異時点間代替(intertemporal substitution)」をご覧ください。) これに対し、家計が持つ資本については、このような仮定は設けられていません。家計はすべての財を企業に貸すでしょうか?まず、貸し出そうが貸し出すまいが、財は減耗してしまいます。貸し出せばレンタル料を得ることができますが、貸し出さなければレンタル料を得ることはできません。したがって、家計は常に財を貸し出そうとします。ただし、資本のレンタル価格が正である限りにおいてです。 また、労働市場については、需給は常に一致しているという仮定が設けられていましたので、企業は家計が供給する労働を常に需要していました。後に、資本財市場の均衡条件(このモデルは1財モデルなので、これは財市場が均衡しているということでもあります。)として需給一致が導入されます。ここではまだその条件が設定されていませんので、ここでの資本はあくまで家計が貸し出すことが可能であり、貸し出したいと考える資本財の量です。貸し出している財の量ではありません。従って、この予算制約式は、企業が生産に使う資本の量の変化を示すものでもありません。 第三に、この予算制約はある期とその次の期の家計の持つ資本の関係を示すだけのものです。全期間を通じた予算制約ではありません。 ここで、今期の消費の量と次期の消費可能量との関係を見ておきましょう。予算制約式(2.19)から何がわかるかということです。今期に、生産量=所得が一定という条件の下で消費量を1単位増やしたとします。所得は一定ですから、時期に繰り越せる資本財は1単位減少します。次期に貸し付けうる資本財が1単位減少するということです。すると次期のレンタル単価をXとすれば、Xtだけレンタル収入が減ります。一方、資本の減耗率をδとすると、1単位の資本はδだけ減耗します。この二つをあわせると、次期の消費可能量はXt-δ減少します。この関係の中で、今期の消費と次期の消費を選択していくわけです。 その選択の条件を示すのがオイラー方程式です(2.20)。これが隣り合う各期の間に存在する予算制約の下で効用を最大化する家計がとる行動を示すものです。具体的には、隣り合う各期の消費水準の関係をどのように定めるかを示すものです。全期間を通じた消費の決定を行うものではありません。 では、家計は効用を極大化するrために、どういう風に隣り合う期の消費のバランスを決めるのか? t期の消費から得られる限界効用が、t+1期の消費から得られる限界効用に(1+X-δ)÷(1+ρ)を掛けたものになるようにt期の消費とt+1期の消費を決めるということです。 少し解説をします。まず、この方程式によって決まるのは、隣り合う二つの期の消費の絶対量ではありません。たとえば、ある消費の組み合わせt期に100とt+1期に110が、オイラー方程式を満たしていたとします。しかし、これが唯一の消費の組み合わせとはいえません。t期に200とt+1期に230の消費も同じようにオイラー方程式を満たすかもしれません。 少し、先走りますが、51ページの図2.5に消費の経路が示されています。BからB’’にいたる経路もAからSにいたる経路も、CからC’’にいたる経路もすべてオイラー方程式を満たしています。 消費の絶対量を決めるためには、全期間を通じた消費の総額に対する制約も必要になります。ここが、静学での予算制約と違うところです。 以下は、おまけです。 さて、で説明した「消費の時間選好率」、λを使って、(2.20)を書き換えてみましょう。 定義により、効用を変化させないような△c2と△cの組み合わせが存在するとき、λ≡(△c2/△c1)-1です。このラムダを、効用関数を使って表示すると、 λ≡(△c2/△c1)-1=u'(c1)/u'(c2)×(1+ρ)-1【1】 でした。 一般化するために1、2期をt期、t+1期とします。 λ≡(△ct+1/△c)-1=u'(c)/u'(ct+1)×(1+ρ)-1 中間の辺をはずすと、こうなります。 λ=u'(c)/u'(ct+1)×(1+ρ)-1 少し変形していきます。 1+λ=u'(c)/u'(ct+1)×(1+ρ) (1+λ)/(1+ρ)=u'(c)/u'(ct+1) (1+λ)u'(ct+1)/(1+ρ)=u'(c) 【2】 (2.20)に【2】を代入するとこうなります。 (1+λ)u'(ct+1)/(1+ρ)=(1+xt+1-δ)u'(ct+1)/(1+ρ) 両辺に(1+ρ)をかけます。これによって効用の時間選好率ρが式から消え、消費の時間選好率λだけの式になります。同時にu'(ct+1)で割ります。これによって効用関数を含まない式になります。 1+λ=1+xt+1-δ この式は、次のことを示しています。 消費の時間選考率と消費を断念して行う投資から得られる収益率が等しくなるように、消費の相対的な水準を定めると、家計は効用を極大化できる。 人気blogランキングでは「社会科学」の22位でした。↓ここをクリック、お願いします。 人気blogランキング