「基礎年金番号導入の効果」について

「労働保険で年金を確認」(http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_6f25.html#comments)のコメント欄で、hamachanさんがこう述べられています。

末端職員の事務能力が及ばないような複雑な制度設計を本省が机上でやっていくという仕組み自体を考え直さなければならないのかも知れない、というのが今回の騒ぎの一つの反省点かも知れませんね。

ごもっともではありますが、少し、付け加えたいことがあります。

今回、年金制度を調べてみて、痛感したのですが、年金というのは、公務員だけではなく、被保険者である国民、会社員、そして、国民年金であれば市町村、厚生年金であれば会社が、きちんと手続きをして始めて円滑に年金を支給できる制度であるということです。

末端公務員(社会保険庁職員だけではなく市町村の職員も)であれば、給料をもらっているのですから多少のきつさはあってもいいのだと思います。能力を超えてはならないのはもちろんです。

しかし、国民や会社員、会社、特に中小零細企業にとっては、かつての制度はかなりの無理があったと思います。

国民年金から厚生年金に変わると、別の番号が振られ、別の手帳が渡される。その手帳をなくさず、何十年も保管し続けなければならない。なくしたら、新しい手帳をもらうのではなく、元の手帳を再発行してもらう。住所が変わっても、名前が変わってもこまめに届けなければならない。保険料の領収書を何十年も保存しておかなければならない。当たり前といわれれば当たり前なのですが、それができなかった方が大勢いるのです。無理があったといわざるを得ません。

また、会社の方もいちいち手続きをしなければならない。どの会社も事務手続きが完全にできるというわけではありません。

今回の5,000万件の問題は、その意味ではすべてが社会保険庁が悪いとは言えないでしょう。手帳をなくして、新しい番号で手帳をもらった方は、その時点で自分から過去の番号を行方不明にされてしまっていたのですし、結婚して名前を変え、退社したときに、新しい名前で国民年金に加入した方も、過去の厚生年金の番号、記録を捨ててしまっていたのですから。

しかし、5,000万件問題は過去のの制度の欠陥の結果、負の遺産です。「基礎年金番号導入の効果」で示したように、一人の人間について、どんな状態でも一つの番号で統一するという基礎年金制度を導入した後は、年金番号は殆ど宙に浮いていません。

また、所謂「消えた年金記録」の問題は、来年度から加入者に毎年、前年の納付記録を送るというシステムを導入すれば、新たに発生するおそれはかなり低くなります。1年間、領収書などを保存しておけばいいのですから。社員からは保険料を徴収しておきながら、国に納めないという汚い手を使う会社もすぐに見つかります。また、名前や住所の変更を届けていなければ、すぐに分かります。

実は、この二つ、すでに行われた基礎年金番号の導入と来年から始まる毎年の全加入者への「ねんきん定期便」の送付、で現在の制度運営の大きな欠陥は殆どなくなるのではないかと想像しています。

制度そのもの、例えば三号被保険者緒問題などは、制度そのものの問題ですからまた別の話です。

また、このほかにも小さな運営上の問題はたくさんあると思います。

総務部給与課さんがおっしゃるように、国が「後手後手」に回っているのは事実ですが、年金制度というのは、長期的な制度で、運営の技法も含めて徐々に成熟させ、完成させていくほかないような気がしています。

ついでに言えば「年金定期便」を送るコストは、一人100円として、加入者5,000万人なら50億円かかります。年金を確実に受け取るためにはやむを得ないのですが、巨額ではあります。

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