均衡予算乗数のまとめ

均衡予算乗数のまとめの一歩手前 その3」まで、いろいろなことを書いてきました。そろそろ、まとめをしておきたいと思います。 問題の基本は、政府がある額の支出を支出を行えば、それに伴ってその額に等しい付加価値が生み出され(生産され)、その付加価値が分配されるという現在の国民経済計算の仕組みにあります。 これは、国民経済計算を作っている側からすれば、実は一つの便宜的な仮定に過ぎないのだろうと思います。 しかし、作成された国民経済計算を使っている側には、これをあたかも真実であるかのごとく受け止められているのかもしれません。おそらくそうなのでしょう。 そうであれば、教科書を読む学生をミスリードしたり、政府(政治家、公務員)の政策判断を誤らせたりするおそれがあります。 では、どうするか。これが仮定であることをもっと明確にするのが基本で、賢明な政府支出(政府最終消費支出であれ、政府固定資本形成であれ)の必要性を、もっと強調すべきでしょう。 ケインズも別に穴掘り、埋め戻しを推奨したわけではなく、もっと意味のある支出が望ましいと思っていたはずです。 その上で、学生、政府に特有の問題があります。 まず、学生(経済学部の学生、あるいは他の学部の学生で、2単位くらい経済学の基礎といった科目を取るひと想定しています。)についてなのですが、おそらく、マクロの問題を教えるとき、生産、支出、分配の考え方を示し、三面等価の原則を教え、次ぎに国民所得の決定を教えるのではないでしょうか?ひょっとすると前半は省略でしょうか? すると、政府がある額の支出を支出を行えば、それに伴ってその額に等しい付加価値が生み出され(生産され)、その付加価値が分配されるという仮定が必ずしも正しくないという説明をした場合に、必ず、では三面等価の原則は成立しないのか?という疑問、あるいは混乱が起こるのではないかと思います。(学生がまじめで、理解力があることを前提にしています。) その場合に、どう説明するかという観点で、まず、真の付加価値を考え、次ぎに政府最終消費支出であれば「政府営業余剰(損失)」、政府固定資本形成(公共事業)であれば「隠された補助金(課税)」という概念(表面的な支出のうちに再分配が紛れ込んでいるという考え方です)を使えばいいののではないかというのが、一連のエントリーでの提案です。 なお、隠された補助金(再分配)という方は、かなり説得力があると思うのですが、隠された課税という概念が妥当かどうか、十分な自信がありません。小野先生はθは最大でも1であると仮定されている(あるいは政府の能力はその程度である)ようなので、これを受け入れれば、この問題はないことになります。しかし、現実にはこの問題は起こっているだろうと思います。政府を過大評価しているでしょうか? 政府については、こうだろうと思います。国民経済計算に頼ることなく、個々の支出を良く検討し、賢明な支出を行え。ただ、再分配が必要なこともあるのは事実ですから、それを公共事業で行うということにも、ある程度の合理性はあります。大事なのは、それを意識してやることでしょう。 さて、学生や政府の問題を離れて国民経済計算で、このような概念を新たに認めるとすると必ず、では、それをどうやって推計するのか?という問題が発生します。国民経済計算は、元々実践的な性格を持っており、どんなに精緻な概念であっても推計できないでは意味がないと考えられ易いのです。 そうすると、政府のサービス、固定資本の真の価値をどうやって測るのかという問題に進むことになり、さらに、政府のサービス、固定資本の真の価値とは何かという理論的な問題に戻ることになります。 元来、政府が市場メカニズムに任せておいては適正な供給が行われないような財・サービスを提供しているのだとすれば、政府のサービス、固定資本の真の価値は言葉では表現できても、それを算出する式を作るのは困難ではないでしょうか?自衛隊は、安全という価値を作り出しているとは言えても、安全の価値を知るのは困難です。 推計と言うことになると、さらにその式に当てはめるべき具体的な数字が必要になりますから、さらに難しさがあります。 結局、このような困難があるから、コスト=付加価値という仮定を置いているのかもしれません。 かといって、この仮定に小野先生が提起された問題がないと主張するわけではありません。 この問題を考えていくと、政府が営業余剰(損失)を持っていたり、固定資本の真の価値とコストが違うとき、それが民間主体(家計や企業)によりどのように評価され、それが民間主体のこうどうにどのような影響を及ぼすのかという問題も浮かんできます。 これについては、今後の課題とするということにしたいと思います。逃げかもしれませんが。 このようなややこしく、十分整理できていない冗長なエントリーに、長々とおつきあいいただきありがとうございました。目を通していただいた方に感謝します。恐縮ですが、今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング人気blogランキングでは「社会科学」の21位でした。