景気がごく緩やかであれ回復し、企業の収益が大幅に改善しているにもかかわらず、賃金が上昇しないというパズルがあります。
賃金の高い
団塊の世代が大量退職して、賃金の安い若手の採用が増えているからだという考え方もあります。
他に考えられることはないでしょうか?生産は回復しているのですから、労働力に対する需要が増えていることは確かです。普通なら
労働市場で需給がタイトになり賃金が上がるはずです。それなのに賃金が上がらないのであれば、実は需給はタイト化していない、つまり需要の増加に応じて労働力の供給も増えているという可能性を考えてみなければなりません。
そこで、労働力の供給が増えるのは、どんな場合かというのを考えてみました。
1 労働可能な人口が増える。15歳以上の人口と考えて良いでしょう。
2 働く意志のある人の割合が増える。
労働力率が高まるということです。結果として
労働力人口が増えます。
今回の景気の谷は2002年(平成14年)1月とされていますので、2002年10月と2006年10月を比べてみました。
15歳以上人口は、1億952万人から1億1,030満人に増えています。しかし
労働力率は61.3%から60.9%に下がっています。
高齢化の影響があるのだろうと思います。この結果、
労働力人口は6,717万人から6,718万人に増えていますが、増えたのは1万人に過ぎません。
別の可能性を考えてみなければなりません。
労働力人口のうち仕事についている人、つまり就業者は、6,355万人から6,437万人に82万人増えています。逆に仕事についていない人、完全失業者は362万人から281万人に減っています。
今、二つの可能性を考えているところです。
第一番目は主に仕事をする人と、家事や通学の傍ら仕事をする人の区別です。
仕事についている人、就業者のうち、通学や家事の傍ら仕事をしているのではなく「主に仕事」をしている人が増えていることからの連想です。ちょっと、脇にそれますが、主に仕事をしている人は5,329万人から5,416万人に87万人増えています。就業者の伸び以上にこのグループの伸びが大きいということは、見た目、というか単に数で数えたとき以上に、仕事に投入できる労働力が増えていることを意味しています。
さて、元に戻ります。
労働力人口のうち仕事についていない完全失業者の中にも、主に仕事をしようとしている人と、家事や通学の傍ら仕事をしようとしている人がいます。先ほど書いたように、完全失業者は362万人から281万人に減っているとしても、この二つを区別したとき、どういう姿になっているかで意味合いが違ってきます。
第二番目は年齢です。
高齢者であっても完全失業者に含まれますが、こういう人が増えても減っても、企業が
労働市場の状況が変わった、だから賃金水準を変えなければならないとは思わないのではないでしょうか?
この二つの観点から、12年10月と18年10月の比較を行って見ました。
完全失業者の動き(万人、倍)年齢 | 全体 | 増減 | 主に仕事 | 増減 |
---|
全年齢 | 281 | △33 | 224 | △31 |
20から29歳 | 80 | △25 | 71 | △22 |
30から34歳 | 89 | 16 | 75 | 12 |
その他 | 112 | △24 | 78 | △21 |
これを見ると、確かに完全失業者は減っていますし、主に仕事をしたいと考えている人も減っています。でも、主に仕事をしたいと考えている20から44歳の完全失業者は156万人から10万人減っただけです。30から44歳をとれば63万人から75万人に逆に12万人増えています。
この状況だと、企業が少し採用の上限年齢を上げれば、まだ採用は可能、こう考えている可能性があります。これが、賃金の上がらない理由の一つかもしれません。
すると、生産の回復が進み、30歳以上の主に仕事をしたいと考えている人たちが就職していけば、賃金は上がることになります。
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