足による投票

足による投票をもう少し考えてみたいと思います。 「夕張市の症例研究 その2 足による投票」についてで引用した部分に続いて、岩田先生はこう述べられています。 地方分権的であれば、各地方政府は人々や企業を引きつけようとして競争する。これによって、安価で質の良い政府サービスが供給される可能性が高まる。つまり、自由主義者にとって、政府についても市場と同様に、キーワードは競争である。 はて、どうでしょうか? 議論の前提を示しておきます。なるべくシンプルなものにしてあります。 1 ナショナル ミニマムは、国の財源で、国の行政組織によって保障される。地方政府は関与しない。 2 地方政府は、自分の土地で課税ベース、税率を自由に決定することができる。 3 地方政府は、支出を自由に決められる。 4 国民は、法的には居住地選択の自由を持っている。足による投票が可能です。 このような条件の下で、地方政府はどのような政策を採るでしょうか? 全然、分かりません。 この答え、ミクロ経済学を学んだ方には、すぐ分かるはずです。地方政府の行動を制約する条件は示されていますが、地方政府が何を目指しているかが決められていないから、地方政府の行動は決定できません。 そこで、地方政府は、豊かな(一人当たりの所得が高く)地方を作ろうとするとします。あくまで仮定です。 このような地方政府は、どんな政策を採るでしょうか?現在の住民を豊かにするという方法がありますが、これは直接には足による投票に結びつかないので、除外しておきます。 概念的には、次の二つです。 1 他の地方政府の地域に住んでいる豊かな住民を呼び寄せ、自分の地域に住んでいる豊かな住民を引き留める政策    例えば、豊かな人に累進税率を掛けない、高級住宅地など財産に対する税率を低くする。高所得層が好むような行事を開く、美術館など施設を作る。補助金を出して、授業料の高い私立学校を誘致する。    これらは、まあ、まともとも言えます。岩田先生のおっしゃる「各地方政府は人々や企業を引きつけようとして競争する。」という状況になるかもしれません。 でも、そうまともではない政策が採られるかもしれません。 2 他の地方政府の地域に住んでいる貧しい住民の流入を抑え、自分の地域に住んでいる貧しい住民を追い出す政策  例えば、人的控除を低くする。高額の人頭税を課す。低所得者向けの住宅を造らない。(これは大事です。)低所得者のもつ住宅を買い上げ、他の地方政府の地域への移転を促す。公立高校を作らないか、授業料を高くする。 別にすべての地方政府がこのような政策を採るだろうと言うわけではありません。地方政府がどのような目的を持つかによって、その政策は大きく変わります。介護保険料が高くなるので、介護施設を作らせないようにしたという例はありますが。 普通、投票というと、候補者はできるだけたくさんの票を獲得しようとします。有権者は大切にされます。足による投票と言われると、同じようなものと感じてしまいますが、実際は、必ずしもそうではありません。この人からは得票したくないという場合があるのです。有権者を候補者が虐待することもあるのです。普通の投票とは違います。大切にしてもらいたければ、あなたが地方政府の基準を満たす必要があります。   人気blogランキングでは「社会科学」の46位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング