夕張市の症例研究 その2 足による投票

夕張市の症例研究 その1 ナショナル ミニマムと地方分権」について の最後で書いた「分かる」「他のこと」というのは、足による投票で、誰が投票権を持ち、誰が持たないかということです。 まず、足による投票とは何なのか、岩田規久男先生の説明を引用します。出典は『「小さな政府」を問い直す』の67,68ページです。なお、この本をrascalさんがうまく要約されています( http://d.hatena.ne.jp/kuma_asset/20061006/1160148007)。rascalさんのコメントも秀逸です。  政府を選択する自由という観点からは、政府は中央主権的であるよりも地方分権的であるほうが望ましい。地方分権的であれば、私たちはある地方政府が気にくわなければ、他の地域に居住地を移動することができる。これを住民の「足による投票」という。実際に他の地方政府の土地に居住地を移す人がほとんどいなくても、移る可能性があるというだけで、地方政府の権力の乱用に歯止めをかけることができる。 「気にくわない」と「権力乱用」の間にはかなり差があるように思いますが、いやな政府が納める土地からは逃げ出し、いい政府の納める土地に移住するということです。 何となく、ピルグリムファーザーズのアメリカ移住が思い出されます。あるいはフロンティア開拓時代の自由な香りを感じさせられます。 日本に話を戻しましょう。「足による投票で、誰が投票権を持ち、誰が持たないか」などという問題は存在しないはずです。日本では基本的人権として、居住の自由が認められています。すべての人が足による投票での投票権を持っているはずです。 しかし、本当でしょうか?移住、簡単に言えば引っ越しってそんなに簡単にできるものでしょうか?すべての人が現実に引っ越したいと思えば引っ越せるでしょうか? 夕張市を例に取ります。夕張で農業、林業を営んでいる人は、気軽に引っ越せるでしょうか?転職したり、他の土地で農地を買うことができれば別ですが、夕張で農業、林業を続けようとする限り夕張に住む以外の選択はありません。長距離通勤農業、林業という選択肢はあるかもしれませんが。こういう方には、足による投票権は事実上ありません。 次ぎに、引退して、自宅で暮らし、年金で生活を立てているお年寄りはどうでしょうか?自宅に住んでいれば、家賃は入りません。しかし、引っ越すには、新たに家を買うか、借りる必要があります。家を買うお金がなければ、借りることになりますが、最初に、敷金、礼金が必要になります。そして毎月家賃を払わなければなりません。お金がない人にも、足による投票権は事実上ありません。 体が弱くて、引っ越す体力、気力のない高齢者も同じです。 以上は、私の仮説で、間違っている可能性もあります。 夕張市はこの仮説が正しいかどうかを、考える材料を提供してくれるはずです。夕張市は必要最低限のサービス、ナショナル ミニマムしか提供しないはずです。これが気にくわない市民は引っ越そうとするはずですが、上に書いたような方々は引っ越せないはずです。 夕張市に、この様な方々が残り、お金、体力、気力のある方々が出ていく傾向が見られるかどうか、興味深い事例です。 なお、足による投票についての岩田先生の議論は、面白いので、もう一度取り上げてみようと思います。 人気blogランキングでは「社会科学」の38位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング