職種別賃金

労務屋@保守親父さんが、日経新聞が職種別賃金が広がり、その結果、労働力市場が流動化するだろうと言う記事を批判されています。http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050627

労務屋さんのご批判の要点は、日本の企業で職工一元化されているとはいえ、実際には賃金格差があるから、職種別賃金の導入は実態を表面化させただけで、本質的な変化が生じているのではないということです。

「職工一元化」というのは懐かしい言葉です。意味の分からない方もいらっしゃるかもしれません。「職員」、つまりホワイトカラーと「工員」、つまりブルーカラーの賃金雇用制度を同じにするということです。

戦前には、職員と工員の賃金雇用制度には違いがありました。戦後、おそらく昭和40年代まで残っていただろうと思います。(いつ頃姿を消したのかよく知りません。詳しい方がいらっしゃればお教え下さい。)これをある種の「身分差別」とみて労働組合が一元化を要求し、実現しました。現在は、ある意味で当然視されているのかもしれません。

職工二元的な賃金雇用制度での、主な相違点は三つあります。

1 職員には雇用保障があるが、工員にはない。

2 職員は労働時間に対応しない「月給」かつ「年功的賃金」。工員は労働日数に比例する「日給」。熟練度により日給額自体に差がありました。「月給取り」というのは単なる「労働者」という意味ではなく、ホワイトカラーのステータスを示す言葉でした。

3 職員には相当額の「賞与」があり、工員にはない。

このような賃金制度は、職員については内部労働市場型、工員は外部労働市場型です。つまり職員はあまり転職せず、工員は活発に労働異動するということです。

日経の記事のように、職種別に賃金に差があっても、

1 雇用保障があり、

2 賃金がある程度年功的であり、(内部昇進型と言い換えてもいいと思います。)

3 相当額の賞与(一時金)がある。

という、条件が満たされれば、それは内部労働市場型の賃金制度であり、それほど雇用の流動化にはつながらないでしょう。

この点で労務屋@保守親父さんの批判は当たっていると考えます。

では、戦前型の職種別賃金は、現在存在しないのか、広がっていないのか、労働市場は流動化していないのかと問われれば、「それは広がっている。流動化は進んでいる。」と思います。日経新聞の記事に書かれていたようなことではありません。

同一労働同一賃金のアイロニー その3」で、書いたのですが、それはパートタイム労働者の労働市場です。

パートタイム労働者は、

1 有期契約が圧倒的で、雇い止めが可能です。つまり雇用保障が弱いのです。

2 賃金は、労働時間比例の「時間給」です。

3 そして金一封はあっても、一般的には「賞与」はありません。(同一賃金同一労働のアイロニーでリンクを張った統計表をご覧下さい。実務家の意見はhttp://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050706をお読み下さい。)

その結果、パートタイム労働市場は、流動性が高くなっています。女性の場合、産業によって差がありますが、平均勤続年数は5年ぐらいです。(定年後正社員が、短時間労働者として働く場合が含まれているので、統計には多少バイアスがかかっているでしょう。)

そして、企業規模や男女別に賃金に格差があまり見られないのです。おそらく他の企業で働いていたことで採用を渋ることもないだろうと思います。(大企業の場合、同業他社を辞めたものを正社員として採用するのをためらう、あるいは応募すること自体もためらう傾向があるのではないでしょうか。そうであれば流動化などしません。)

戦前の「職工」身分格差は現在、「正社員・パートタイム」身分格差として再現されているのだろうと思います。

そして、これは職種を基礎としている点で、実はホワイトカラーとブルーカラーからなる欧米の一般的なシステムとも共通性を持っているのではないかと思います。つまり、合理的なシステムではないかと思うのです。

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