「
毎月勤労統計でみる労働経済の動き(2016年3月)」などでパートタイム労働者の雇用の動きを追ってきましたが、かなりの期間、拡大基調が続いてきました。特に15年には前年同月比4%台という高い増加率が続いていました。それが16年に入ってから伸び率が低下してきました。
雇用の水準が高まった後、一定になっても、前年同月比増加率は低下していきますがプラスを続けます。パートタイム労働の拡大が停止したかどうかは、前月比で見る必要があります。ただ、毎月の指数(原系列といいます。)には季節変動があるため単純に前月比を見ると季節的な変動をとらえてしまいます。そこで、過去の季節的な変動のパターンを考慮して季節調整を行ったうえで、前月比を計算しなければなりません。
この季節調整はかなりテクニカルで、様々な仮定をしたうえで行われますし、新たなデータが追加されると、「過去の季節的な変動のパターン」が多かれ少なかれ変化しますので、それを踏まえて再計算が行われます。この結果、事後的に変更されるのが普通です。前月比の変化が大きなときにはそれほど問題はありませんが、微妙な変化をとらえるとき、拡大から縮小に緩やかに転じる場合には、再計算により減少が増加に転じたりします。難しいのです。このような制約があるという前提で、公式の季節調整値を使って分析をしてみます。
2014年12月からの動きは下の表のようになっています。前月比はそのままの数字です。年率換算したい場合は12倍するといいでしょう。
基調としては増加で、2016年1月に過去最高の値をとっています。その後2か月連続して減少していますが、率としてはわずかなものですが、これまで増え続けていたので減ったこと自体に注目すべきでしょう。なお、2015年3月に減ったことがありますが、これはその前の月の増加率が異常に高かったためで、外れ値と考えていいと思います。
パートタイム常用雇用の動き(実績)月 | 季節調整済み指数 | 同左前月比 | 原指数前年同月比 |
---|
14年12月 | 112.5 | 0.3 | 2.8 |
15年1月 | 113.5 | 0.9 | 3.9 |
2月 | 114.9 | 1.2 | 4.9 |
3月 | 114.2 | △0.6 | 4.6 |
4月 | 114.3 | 0.1 | 3.8 |
5月 | 114.7 | 0.3 | 3.5 |
6月 | 115.5 | 0.7 | 4.4 |
7月 | 116.2 | 0.6 | 4.7 |
8月 | 116.2 | 0.0 | 4.7 |
9月 | 116.2 | 0.0 | 3.9 |
10月 | 116.8 | 0.5 | 4.5 |
11月 | 117.3 | 0.4 | 4.5 |
12月 | 117.5 | 0.2 | 4.4 |
16年1月 | 117.6 | 0.1 | 3.6 |
2月 | 117.5 | △0.1 | 2.3 |
3月 | 117.4 | △0.1 | 2.8 |
仮にこのような現象が本当だったとして、パートタイム労働者数の減少が需要の減少によるものか、供給の壁にぶつかったためであるかが問題になります。1時間当たりの所定内給与が上がり続けていること、所定内労働時間が短くなり続けていることが判断の手掛かりになります。前者は多少高くても採用したいと企業が考えていることの反映ですし、後者は採用基準の緩和を窺わせます。また、フルタイムの雇用が増えていることも手掛かりになります。労働需要が減っているとは考えられません。供給の限界と考えるのが自然でしょう。
もしそうなら今後何が起こるでしょうか?
まず、パートタイム
労働市場では、これまでと質が同じ労働者については1時間当たりの所定内給与の上昇が続くでしょう。また、採用基準が緩和されこれまでだと採用されなかったような、中年男性、
高齢男女労働者も採用されるようになるでしょう。短時間しか働けない人も採用されそうです。大学4年生のように期待できる雇用期間が短い人も採用されやすくなるでしょう。これに伴って、採用されることをあきらめていた人が仕事を探し始め、その結果
労働力率が高まるものと思われます。
フルタイム
労働市場にも影響は出てきそうです。パートタイム労働者を増やせないのであれば、フルタイムを採用するか、労働節約的な投資をするか、製品や事業を転換するか、廃業をしなければなりません。すべて行われると思いますが、フルタイムの採用は、その規模は分かりませんが、増えるでしょう。労働者の質が同じであれば賃金は上昇するでしょう。フルタイム労働者の採用基準も緩和されるでしょう。これまでであれば採用されなかった人の賃金は低めかもしれません。またフルタイム労働者に早出、残業、休日出勤を求める会社も増えるでしょう。フルタイム労働者の平均賃金への影響は微妙です。
常用労働者全体の平均を見ればパートタイム労働者の割合が減るため平均賃金は上昇すると思われます。平均的な労働時間はよくわかりません。所定内労働時間は減りそうな気がします。雇用の伸び率は労働時間の長いフルタイム労働者の割合が高まるので、やや下がると思われます。ただし労働需要がさらに強くなっていけば伸び率は下がらないかもしれません。
私としては採用基準が緩和され、
労働市場から出ていっていた人が
労働市場に戻ってきて、採用されるのに期待しています。「
明暗分かれる30代前半と後半の男性」で取り上げた30代後半、40代前半の男性の復帰を期待しています。
しかし、本当に供給の限界に達したのかどうかはまだはっきりしません。仮に、これで供給の限界に達しており、これ以上は増えないと仮定して季節調整値の12月までの前年同月比を出してみました。前年同月比は、本来は原系列で計算すべきものですから、あまりいいものではありませんが、参考までに。
パートタイム常用雇用の動き(仮定)月 | 季節調整済み指数 | 同左前月比 | 原指数前年同月比 |
---|
4月 | 117.4 | 0.0 | 2.7 |
5月 | 117.4 | 0.0 | 2.4 |
6月 | 117.4 | 0.0 | 1.6 |
7月 | 117.4 | 0.0 | 1.0 |
8月 | 117.4 | 0.0 | 1.0 |
9月 | 117.4 | 0.0 | 1.0 |
10月 | 117.4 | 0.0 | 0.5 |
11月 | 117.4 | 0.0 | 0.1 |
12月 | 117.4 | 0.0 | △0.1 |
今後の動きに注目です。
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