限定正社員は万能薬か?

限定正社員ができると、どのような効果が生じるのでしょうか? 個人にはいろいろなタイプがいますから働き方への志向も異なっています。同じ働き方であっても、本人の志向によって満足度は違うでしょう。自分の志向に合う働き方ができれば満足度は高くなるし、志向に合わない働き方をしていると、満足度は低くなると考えるんが自然です。次のような組み合わせを考えることができます。 満足度
タイプ正社員限定正社員非正規労働者
ハード志向1005020
バランス志向5010050
ゆったり志向2050100
今、限定正社員という働き方がないとするとバランス志向の人は、どうしても正社員か非正規社員のどちらかを選ばざるを得ません。満足度は低くなってしまいます。このような場合に限定正社員という仕組みを企業が作ると、バランス志向の労働者がそのような働き方をできる可能性が高くなり、満足度は上がりそうです。このように、労働者の志向と現実の働き方のミスマッチを減らせることこそ、限定正社員の本質的な長所でしょう。 では、企業にとってこのような制度を導入する誘因はあるのでしょうか?あると考えるのが自然でしょう。満足度の高い働き方であれば、多少、賃金が下がっても労働者をそのような働き方を選ぶでしょう。つまり、企業にとってはコストダウンになるのです。また、仕事に対する満足度が高いと生産性が上がるというような効果もあるかもしれません。そうであれば、賃金と生産性とのバランスで、このような仕組みを導入したら有利になる企業は、おのずからこのような仕組みを取り入れるでしょう。 ただ、このような仕組みを作ったとしても、正社員の人数枠、限定正社員の枠、非正規労働者の枠が、労働者のタイプごとの人数と一致するかどうかはわかりません。企業としては会社の裁量で自由に動かせる正社員がある程度必要であるということは十分あり得ます。ある程度賃金などの労働条件を調整して、バランスをとる必要があるでしょう。 さらに、各タイプごとの人数と人数枠が一致していたとしても、うまく組み合わせられるとは限りません。ハードに働きたい人が限定正社員として採用され(まず、限定正社員で採用し、実績を見て正社員にするという企業も現れるでしょう。)、バランス志向の人が、正社員として働いているという可能性もあります。社内の人事異動や転職を通じて調整される必要があります。 さて、限定正社員になりたい人を限定正社員にすれば、必ず満足度は上がるのでしょうか。実はそうではないと思います。例えば、ハードワーク志向の人がこれまで正社員としてバリバリ働いていて、本人も会社も満足していたとします。この労働者の親が介護が必要な状態になり、介護離職をするほどではないが、これまで通り無限定に働くことができなくなったとします。会社も本人の事情を考慮して、限定正社員にしたとします。これは、介護をしなければならないという制約の下では最善の決定です。しかし、本来、バリバリ働きたい人がそういう働き方ができなくなっているのですから、生活全体、あるいは仕事の満足度は下がるでしょう。特に、本人が自分が介護することに納得していなかった、理不尽だと思っている場合には、満足度は大きく下がるでしょう。女性の出産、育児も問題もそうです。こちらは期間が限定されているので、一時、限定正社員になって、やり過ごし、再び正社員に戻れるのであれば低下度合いは少ないでしょうが。限定正社員制度は、根本的な問題まで解決できるわけではありません。 正社員に対する過重な負担は減るのでしょうか?正社員から希望して限定正社員に移る方についてはそうだろうと思います。しかし、正社員についてはよくわかりません。数が不足してさらに激務になるという可能性もあります。あるいは、正社員なんだからという圧力が高まる可能性もあるでしょう。さらに、バリバリ働くのが当然と本人たちも思うかもしれません。客観的な働きすぎが生じる恐れはあります。それ対しては、もっと直接的な規制が必要になるような気がします。 バリバリ正社員と専業主婦(夫)希望者のマッチングがうまくいけば出生率は上がるかもしれません。限定正社員と所得よりもゆとりを求める層の結婚も増えるかもしれません。非正規では困るが限定正社員なら結婚して、子供を産んでもいいという人は増えるかもしれません。しかし、バリバリ正社員と結婚したい人が多ければ、逆の結果になります。結局、需給関係とマッチングがうまくいくかどうかによりそうです。 当たり前のことですが、複数の目標をバランスよく達成するためには複数の政策手段が必要です。限定正社員は万能薬ではありませんし、それが当然なのですから、万能薬でないということを持って否定するのもおかしなことです。 人気blogランキングでは「社会科学」の17位でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング