2015年夏季賞与の怪

9月分の毎月勤労統計で夏季賞与が発表されました。事業所規模5人以上の計では前年比2.8%の減少、少し規模の大きい30人以上規模のでも3.2%の減少でした。一方、経済団体連合会が発表していた夏季賞与・一時金大手企業業種別妥結結果では、2.81%増加となっており、この差が問題になります。 https://www.keidanren.or.jp/policy/2015/071.pdf 経団連の発表したものは、おそらく正社員あるいは組合員の平均でしょう。実際に賞与を受け取った労働者の平均額と思われます。89万円という高額です。 これに対して毎月勤労統計の賞与額は意味が違います。 まず、調査対象事業所から、賞与を支払った事業所を抜き出します。今回の調査では、調査産業計の支給事業所割合は68.6%です。前年は68.4%なので大きな変化はありませんでした。 抜き出された事業所の賞与の支給額の合計を求めます。 次に、この事業所の労働者の人数を調べます。ここが大きなポイントなのですが、この労働者には賞与を支給されていない労働者も含まれます。パートタイム労働者、継続雇用者などが受け取っていないケースがあるでしょう。このような労働者も含まれています。また、このような労働者には支払われていても、普通の労働者より相当低い場合もあるでしょう。また、4月に採用されたばかりの新規学卒者も普通は低い額でしょう。これらの労働者もすべて含まれています。今回支給のあった事業所に雇用されている労働者の割合は82.2%で、前年と同じです。 最後に、賞与の支給額の合計を労働者数で割ります。こうして得た金額が36万円という訳です。支給された労働者の平均よりは低くなりますし、低額しか支給されない労働者を除いた場合よりも低くなります。 なぜ、このような方法をとっているかといえば、「支給された労働者数」、「定額しか支払われていない労働者数」を調べ、短期間に回答することを事業所に求めると、全体の回答率が低くなったり、調査票のこの欄だけ未記入となったりするからです。速報統計である毎月勤労統計としては妥当な扱いであると思います。 さて、このような計算方法であれば、パートタイム労働者の割合が高まれば、数値が低くなることが予想されます。そこで、事業所規模別に6月から8月前のデータに基づいてパートタイム労働者の 割合の変化を調べてみました。その結果が次の表です。 パートタイム労働者割合(%)
事業所規模2015年2014年
500人以上17.217.00.2
100人から499人23.722.90.8
30人から99人30.729.51.2
5から29人37.336.80.4
賞与
事業所規模賞与前年比パートタイム労働者割合前年差
500人以上△2.60.2
100人から499人△2.80.8
30人から99人△3.71.2
5から29人0.80.4
30人以上事業所については、パートタイム労働者割合が増えているほど、賞与の額の上昇幅が小さいという関係が見られます。29人以下は、パートタイム労働者割合が高くなっているのに賞与は増えています。 ある程度までは、賞与が増えなかったことをパートタイム労働者の割合の増加で説明することはできそうです。それで十分な説明になるかどうかは定かでありません。 アベノミクスの効果の浸透ということを議論するのであればこの統計の本来の目的ではないのですが、、支給事業所の割合が増えたかどうかも参考になります。この点では広がりは見られなかったというべきでしょう。労働市場への浸透にはまだ時間がかかりそうです。 人気blogランキングでは「社会科学」の番外でした。今日も↓クリックをお願いします。 人気blogランキング