レセプト電子化

レセプト電子化のプロセスは二つの部分に分かれています。一つは、レセプトの情報を電子的なデータにすること、これは電算化と呼ばれています。もう一つは電子化した情報を、医療機関からオンラインで支払機関に送ることです。この二つを総称して完全電子化と呼んでいるようです。 現在の医療機関は、レセプトの処理方法で4つに分かれているようです。 完全電子化に遠いほうから並べていきます。 第1グループ レセプトコンピュータ(レセコン)を一切使用しない医療機関。多くは診療所でしょう。「手書き」と称されているようです。小規模のところが多いと思われます。 電算化×、オンライン化× これ以外はレセプトコンピュータを使っているところですが、これは三つに分けられます。 第2グループ レセプト電算処理(レセプトの電算化)を標準装備していないレセプトコンピュータを使っているところ。 電算化×、オンライン化× 第3グループ レセプト電算処理を行えるレセプトコンピュータを使ってレセプトを電算化し、オフラインでCD-RやFDで請求しているところ。 電算化、オンライン化× 第4グループ レセプト電算処理を行えるレセプトコンピュータを使ってレセプトを電算化し、オンラインで請求しているところ。ここについては、問題はありません。 電算化、オンライン化 医師会などが、完全電子化に反対しているといわれることが多いのですが、反対の内容は世間で言われているものとは少し違うようです。日本医師会の医療IT委員会が21年1月に出した中間答申、「オンライン請求義務化について」(http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20090204_2.pdf))医師会の公式の主張は、二つの部分に分けられるようです。 一つは、「レセプトの数の少ないところはレセプト電算化しなくても良いことにせよ」です。具体的には、レセプトの数が年間3600件以下の所ということです。レセプトを電算化するとレセプト1件に付き30円、ただし初診に限るという条件ですので、最大年額108,000円にしかならず、レセコンの設置、運用や通信回線の費用に見合わないという理由です。導入のインセンティヴが足りないのかもしれません。おそらくこれだけがレセプト電算化そのものに対する反対です。 もう一つは、電算化しないところを除いた、第1グループと第2グループは、次期のレセコン更新(5,6年で更新するそうです。)の時に電算化に対応できるレセコンにして、その時点でレセプトを電算化することにしようという主張です。具体的には26年度程度といっています。こうするとこのグループは、少なくとも第3グループに追いつくことになります。先送りかもしれませんが、少なくとも原理的な電算化反対ではありません。 今、医師会の抵抗しているのは、オフラインからオンライン切り替えの義務化で、「電算化されたレセプトデータであれば、別に送付方法がオンラインでなくても問題はないはず、支払い側が手間を省きたいのなら、そっちがオンライン化の費用を出せ。」ということのようです。これは電算化に対する反対ではなくオンライン請求義務化への反対です。 よく、完全電子化の長所として挙げられる、 (1)審査の効率性も上がる。 (2)個々の医療機関ごとの治療実績や費用が統計データとして蓄積できることから治療方法の改善につながる。 (3)日本の医療の標準化を進めることができる。 は、いずれも電算化の長所であって、オンライン化の問題ではありません。電算化されていればこれらの利点は得られるのです。 (注)次の二つが本当に達成できるのか、その成果がどれぐらいのものなのか、その成果を挙げるためにすべての医療機関のすべてのレセプトが電子化されたデータとして蓄積され続ける必要があるのかという問題もありますが、脇においておきます。 (2)個々の医療機関ごとの治療実績や費用が統計データとして蓄積できることから治療方法の改善につながる。 (3)日本の医療の標準化を進めることができる。 さて、この問題は、グループ毎に分けて考える必要があります。まず、第3グループの問題、本命であるオンライン化の問題から始めます。電算化事態の対する反対ではない以上、支払い側のコンピュータに電算化されたデータを送る込む方法を考えることになります。 簡単に言えば、二つの選択肢があります。一つはオンライン化であり、もう一つはオフラインで送り込まれた電算化されたデータを支払い側でコンピュータに読み込ませるというものです。 オンライン化のコストは、オンライン対応のレセプトコンピュータをすべての医療機関に備え、オンラインの回線を引き、利用することです。コンピュータは5,6年に1度、更新する必要があるようです。また、診療報酬は2年に1度改正されるのが常なので、そのたびにソフトの一部を書き換える必要があります。また、オンライン回線の使用量も必要です。なお、レセプトの請求は月1度ですから、それ以外は利用しないこともありえます。 オフラインの場合のコストは、各都道府県にある基金に、CD-RやFDなど様々なメディアで送られてくるデータを読み取り、コンピュータに送り込むソフトと読取り装置を備える費用と、読み取り作業を行う人件費です。各県1台の読取装置では足りないかもしれません。すべての医療機関の数より少ないでしょう。 どちらが費用が安いのでしょう?これが問題です。これは銭勘定の問題であって、改革派か抵抗勢力かというイデオロギー的な色分けの問題ではありません。 次に第2グループに移ります。 レセプト電算処理(レセプトの電算化)を標準装備していないレセプトコンピュータを、いつ電算化対応のレセプトコンピュータに切り替えるかという問題です。その後のオンライン化の問題は、第3グループと同じですから、ここでは扱いません。 選択肢は、二つで、23年度までにかあるいは、今使っているコンピュータを更新する時期かです。切り替えまでの期間で得られるコスト削減が切り替えを早くする費用を上回っているのかどうかの問題です。切り替えるまでは受け取った紙データを、支払い期間の側で、電算化し、読み込ませる必要があります。それがコストです。もし、速やかに切り替えるほうが社会的な利益が大きいなら、医療機関に十分なインセンティヴを与えれば済みます。 これも銭勘定の問題であって、改革派か抵抗勢力かというイデオロギー的な色分けの問題ではありません。 第1グループの問題は、コンピュータ導入、運用の費用の問題です。ただし、コンピュータを導入しても医者が使えない、したがって廃業するという可能性を考慮する必要があります。 これも、結局は銭勘定の問題です。廃業されると困るでしょうから、医者に代わって誰かが入力する必要があります。問題は、そういう医者にもコンピュータを設置させ、オンラインに加入させた上で、誰かがその医者のところへ行って作業をするか、あるいは支払い側が紙で受け取って、それを電算化し、読み取らせるかどちらがコストが安いか。 これまた銭勘定の問題であって、改革派か抵抗勢力かというイデオロギー的な色分けの問題ではありません。 なお、社会保険診療報酬支払基金のデータ(http://www.ssk.or.jp/rezept/pdf/hukyu.pdfhttp://www.ssk.or.jp/rezept/pdf/hukyu02.pdf)によると、今年1月の段階では、施設数で見ると医科については電算化処理しているのは、病院で55.3%(うちオンライン化しているのが29.0%)、一般診療所では26.5%(うちオンライン化しているのが3.2%)です。 レセプトの件数でみると、医科については電算化処理しているのは、病院分で76.7%(うちオンライン化しているのが57.5%)、一般診療所分では36.1%(うちオンライン化しているのが4.4%)です。 ここをクリック、お願いします。 人気blogランキング 人気blogランキングでは「社会科学」では45位でした。