低所得者は、消費者物価上昇に泣くかも知れないが。

4月は原油価格1円20銭高」で書いたような輸入原油価格の上昇もあり、デフレ(DGPデフレーターの低下)が続く中で消費者物価は上昇しています。輸入インフレの特徴です。今回は輸入品でも原材料や食料の上昇が目立ちます。これは、どのような消費財が値上がりするかに影響を及ぼします。 一方で、所得により消費のパターンは違います。例えば、低所得層ではエンゲル係数が高いと言うことはよく知られています。 すると、同じように消費財の価格が上がっても、所得が高い場合と低い場合で、受ける影響は違ってきます。 高級車など贅沢品の値段が上がっても、元々そんなものを買わない低所得者は影響を受けません。逆に比較的単価の安い米の値段が上がると、低所得者は困ります。 このように所得の違いに応じて消費パターンが異なるのに対応して、所得階級別の物価指数が作られています。正式には勤労者家世帯年間収入五分位階級別指数といいます。平成17年平均を100とした指数です。 所得階級別物価指数(平成17年=100)
階級19年4月20年3月
100.1101.2
99.9100.9
100.0101.0
100.0100.8
100.0100.7
これを見ると19年4月には、収入の最も少ない第1分位階級で100.1、第2分位階級で99.9、残りの階級はすべて100で殆ど差がありませんでした。消費者物価上昇の影響は、所得にかかわらず差がなかったのです。 ところが8月頃から差が出始め、20年3月にはかなりの差になりました。一番影響を受けたのが、もっとも所得の低い第1分位階級で101.2、第2分位階級は100.9、第3分位階級で101.0,第4分位階級で100.8です。もっとも所得の高い第5分位階級が、100.7です。 所得の低いものが悪影響を受け、高いものがそれほど影響を受けないという、皮肉な結果になっています。 なぜこんなことになっているのかを考えてみました。二つの仮説があります。 まず、第1の仮説です。石油の値上がりに応じて、バイオエネルギーの生産が増加しました。食料になるべきものがエネルギーに化けてしまったので、食料が不足し値上がりしました。その影響を低所得層が受けているのです。 もう一つの仮説はこうです。経済発展の著しい開発途上国で家計の消費が盛り上がりました。そのとき彼らの所得水準に応じた商品への需要が急増し、そのような商品が値上がりしました。彼らの所得が、日本の低所得層に似ているため、値上がりする商品は、日本の低所得層がよく買う物と一致しました。その結果、日本の低所得層に一番影響が出ているのです。 どちらの仮説が正しいにせよ、今回の物価上昇が低所得層に厳しいという自体に変わりはありません。しかし、だからといって、消費者物価抑制に走るのは間違いです。デフレ下の引き締めは、大量の失業を生むおそれがあり、その失業者は低所得層から出る可能性が高いからです。 「輸入原材料価格の高騰にどう対応すべきか? 」に書いたような事情から、白川日銀総裁が「日本記者クラブでの講演」(p.10)で述べたように「足許の物価指数でみて物価が上昇していても、金利を引き下げることが必要になる局面もありえます。」 多少、物価が上昇しても、仕事があれば耐えられますが、失業すれば物価が安定していても耐えられません。我慢が必要です。 ここをクリック、お願いします。 人気blogランキング 人気blogランキングでは「社会科学」では29位でした。