均衡予算乗数のまとめの一歩手前 その2
「均衡予算乗数のまとめの一歩手前 その1」の続きです。
1 三面等価の法則
政府固定資本形成の価値が、必ずしもその購入額に等しくないというケースでも、その差を生産者に対する補助金、または課税(通常の補助金、課税と区別するために以下では隠された)という言葉を付け加えます)と考えると、次のような形で所得=生産=支出の三面等価の法則が成立しています。以下では、隠された補助金として記述します。これが負の場合が隠された課税であると考えてください。
国内総支出(GDE)の構成項目、賃金、営業余剰を市場価格で表示するとこうなります。
民間主体から支払いを受けた賃金(WP)+民間企業の営業余剰(SP)=民間主体が生産した財・サービスの付加価値(VP)+政府からの隠された補助金(HS)=政府固定資本形成(GI)+民間の消費支出(C)+民間投資(I) (10)
なお、政府の最終消費支出がないので政府から支払を受けた賃金WGと政府の営業余剰SGは存在しません。
これは市場価格で測ったGDI=GDP=GDEという式です。
このケースでのDGIは、民間部門で生産された付加価値(VP)に加えて、政府からの隠された補助金の部分だけ(HS)多くの収入を得ていますので、その分が賃金、営業余剰として分配されます。これを要素価格表示のGDIとも呼べます。(通常の国民経済計算では、明示されている補助金の部分だけ、要素価格表示と市場価格表示でずれが生じます。)
また、国内総支出(GDE)の構成項目である政府固定資本形成(GI)には、政府からの隠された補助金(HS)が含まれているのでその分だけ大きく表示されています。この補助金を除いたものを真実の政府固定資本形成(GIT)と呼ぶことにします。GI=GIT+HSです。
要するに、国内総所得(GDI)、国内総生産(GDP)、国内総支出(GDE)もすべてが、政府の隠された補助金分(HS)だけ大きくなっているのです。
この隠された補助金の効果を取り除いて、真実のGDI=真実のGDP=真実のGDEを考えると、こうなります。
民間主体から支払いを受けた賃金(WP)+民間企業の営業余剰(SP)-政府からの隠された補助金(HS)=民間主体が生産した財・サービスの付加価値(VP)=真実の政府固定資本形成(GIT)民間の消費支出(C)+投資(I) (11)
(注6)もちろん、HGが負である場合は、小さくなっています。
(注7)隠された補助金がなければ、通常の法則となります。
2 均衡財政
均衡財政の条件式は次のようになります。
T=GI+Z または T=GIT+HS+Z (12)
(T-Z=GI またはT-Z-HS=GIT)
この場合、税収で形式的な政府固定資本形成と給付をまかなうといってもかまいませんし、真実の政府固定資本形成と隠された補助金と、給付をまかなうといってもかまいません。両者は同値です。
3 可処分所得
隠された補助金が存在するため民間の可処分所得に市場価格で表示された形式的なものと真実のものを分けて考える必要が出てきます。
市場価格で表示された形式的な民間部門可処分所得の定義式
DIP≡WP+WG+SP-T+Z (3)
真実の民間部門可処分所得の定義式
DIPT≡WP+WG+SP-T+Z-HS (13)
両差の差は、隠された補助金(HS)です。
(10)を使って国内総支出の構成項目を使って市場価格で表示された形式的な民間部門可処分所得を表示すると、
DIP≡WP+SP-T+Z=(WP+WG+SP)-(T-Z)=C+I+GI-(T-Z)
(14)
となります。同様に、真実の民間部門総可処分所得を表示すると
DIPT≡WP+SP-HG-T+Z=C+I+GIT-T+Z (15)
となる。
4 消費関数
いま、民間の消費支出は、市場価格で表示された形式的な民間可処分所得で決まるとすれば、
C=c(DIP)
(16)
となります。
同様に、民間の消費支出は、真実の民間可処分所得で決まるとすれば、
C=c(DIPT)
(17)
となります。
この二つの差をどう考えたらいいでしょうか?基本的には、家計(消費者)が源泉をたどれば政府から支払いを受けた補助金からの収入を本当の生産への貢献から得た収入とと同様に考えるかどうかという問題があります。
理論はともかく、実際にはどうなのか、興味のあるところです。多くの場合、市場価格を受け入れるのではないかと思います。
(なお、家計が形成された政府固定資本を市場価格で見せかけの額で評価するか、真実の価格で評価するかは別としても、政府固定資本の量が消費に影響するかどうかという問題もあります。これまで考慮するとモデルが複雑になるので、取り上げませんが。)
消費が何によって決まるかは、以下の命題の成立に決定的な役割を果たしています。
命題4-1 民間の消費支出が多くの場合、市場価格で表示された形式的な民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下では、政府固定資本形成支出の増加△GIは市場価格で表示された形式的な民間可処分所得DIPに影響を与えない。均衡予算の下での政府固定資本形成支出の増加の市場価格で表示された形式的な民間可処分所得に対する乗数は0。
DIP=C+I+GI-T+Z
均衡予算(T=GI+Z (T-Z=GI)を考慮すると、
=C+I
=c(DIP)+I (17)
この体系でも外生変数Iに応じて内生変数DIPが決まります。外生変数GIは内生変数DIPの決定に影響しません。
市場価格で表示された形式的な政府固定資本形成が△GI増加すると、新たに生産が行われ(同額の付加価値△VPです)、また、隠された政府補助(△HS)が支給されます。この二つをあわせると△GIに等しくなります(△GI=△VP+△HS)。これは分配されますので、民間には△GI=△VP+△HSと同じ額の所得が発生します。この所得は△SP、△WP、から構成されます。二つをあわせると△GIと同額です(△GI=△WP+△SP)。
政府が均衡財政を維持するためには、普通の場合政府固定資本形成の増加額△GIと同額、税を増やさなければなりません。△GI=△Tです。この追加課税△Tは、民間部門の所得の増加額△WP+△SPと同額です。結局、市場価格で表示された形式的な民間可処分所得は変化しません。
真実の政府固定資本形成が増加した場合には、少し違った次の命題が成立します。
命題4-2 民間の消費支出が真実の民間可処分所得で決まるとすれば、均衡財政の下では、真実の政府固定資本形成支出の増加△GITが真実の民間可処分所得DIPTに影響を与えるかどうかは、政府固定資本形成の増加と同時に隠された補助金が変化するかどうかできまる。
隠された補助金が変化しない場合には、真実の民間可処分所得(DIPT)に影響を与えない。均衡予算の下での真実の政府固定資本形成支出の増加の真実の民間可処分所得に対する乗数は0。
増加する場合には、真実の民間可処分所得(DIPT)は減少する。均衡予算の下での真実の政府固定資本形成支出の増加の真実の民間可処分所得に対する乗数は負。
増加減少する場合には、真実の民間可処分所得(DIPT)は減少増加する。均衡予算の下での真の政府固定資本形成支出の増加の真実の民間可処分所得に対する乗数は正。
(証明)
最初に、数式を。
DIPT=C+I+GIT-T+Z
均衡予算(T=GIT+HS+Z または T-Z=GIT+HS)を考慮すると、
=C+I-HS
=c(DIPT)+I-HS (18)
この体系では外生変数Iと隠された政府補助金HSに応じて内生変数DIPTが決まります。外生変数GITは、HSがGITにより変化しなければ、内生変数DIPTの決定に影響しません。しかし、HSがGITによって決まるのであれば、内生変数DIPTの決定に影響します。
真実の政府固定資本形成が△GIT増加した場合、第一段階では次のようなことが起こります。
まず、△GITに対応して新たに生産が行われ(同額の付加価値△VPです)ます。このとき、隠された政府補助が増額されれば(△HS)、これも支給されます。この二つをあわせると△GIPTより△HS多くなります(△GIT+△HS=△VP+△HS)。これは分配されますので、民間には△GITより△HS多い額の所得が発生します。この所得は△SP、△WP、から構成されます。二つをあわせると△GITより△HSだけ多くなっています(△GIT+△HS=△WP+△SP)。
一方、政府が均衡財政を維持するためには、普通の場合、真の政府固定資本形成の増加額△GITに加え隠された政府補助金の増加分(△HS)も加えた額、税を増やさなければなりません。△GI=△Tです。この追加課税△Tは、民間部門の所得の増加額△WP+△SPと同額です。
さらに、隠された補助金の分、真実の可処分所得は減ります。
結局、第一段階では、真実の民間可処分所得は△HSだけ減少します。
この第一段階での真実の民間可処分所得の現象は、消費Cの減少をもたらします。すると、生産、所得が減ります。すると再び可処分所得が減少し・・・と乗数過程が続きます。
(△HSがゼロの場合は、自明なので証明は省略します。)
(2007年1月4日 間違いを修正しました。)
(2007年1月5日 修正しました。追加した部分にはアンダーラインを引いてあります。)
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