飯田先生のコメントへのリプライ

均衡予算乗数のまとめの二歩手前 その3」など一連のエントリーに、飯田先生からコメントをいただきましたので、リプライを。

前置きを少し。

基本的には、これらは、小野先生のディスカッション ペーパーを自分なりに理解し、自分の言葉で表現しようとしたものです。その場合、所得、生産、支出の区別を明確にし、かつ、三面等価の法則を維持したまま表現したいと考えました。

小野先生はpublic work という言葉を使っていらっしゃるので、政府の支出として、固定本形成だけを考えられているようです。しかし、政府の支出としては、最終消費支出もあります。

「均衡予算乗数のまとめ 二歩手前」シリーズでは、この政府最終消費支出の場合を取り扱っています。この場合には、政府が政府サービスの生産者という立場とその消費者という、二重の役割を演じています。そこで、民間生産者と同様に、営業余剰という概念を導入すれば、政府が生産するサービスの価値はその生産のために要した費用に等しいという仮定を変更する以外は、生産国民経済計算の体系を崩ずに済む(三面等価の原則を維持できる)というのが私の基本的なアイディアです。

一方、固定資本形成の場合は、民間主体が生産し、政府が購入するものです。政府サービスとは事情が異なります。営業余剰という考え方では処理できません。別な考え方をしなければなりません。具体的には、政府の購入額と真の価値との差を、「生産に課される目に見えない間接税」(真の価値のほうが大きい場合)、生産者に対する「目に見えない補助金」(真の価値のほうが小さい場合)とすればよいのだろうと思っています。この場合には、市場価格表示と要素価格表示のGDIとGDPを考えなければなりません。

こちらは、まだ書いていません。「均衡予算乗数のまとめ 一歩手前」シリーズ(?)になる予定です。書いてみて矛盾が生じるかもしれませんが。

飯田先生からご指摘のあった個別の点について。

1 厚生の水準

GDP,GDI,GDE,C,C+I、いずれもそのまま厚生の水準としては使うには問題があり、賢明な支出であるかどうかは重要だと思います。ただ、それは政府の支出に限らないと思います。

2 経済活動の水準

政府の消費を除くという手もあるかもしれません。ただ、私の主な関心である労働問題から見れば、政府の消費は雇用量に影響するので、これを除くというのも・・・。

3 統計精緻化

 「穴を掘って、また埋め戻す」例のように、少なくとも労働者が何かをしているのであれば、それは生産と考えればいいと思います。ただ、雇うだけで、意図的に何もさせないのであれば、それは生産とは考えにくく、したがって支払われた金は賃金ではなく、経常移転と見るほうが自然ではないかと思います。結果として何もさせなかった場合は、賃金でいいのかなと思います。

4 「政府が生産したサービスの価値(VG)はSG相当額だけ小さく認識されます。政府の最終消費支出も、同じようにSG相当額だけ小さく認識されます。」

政府の営業余剰がSGです。

政府のサービス生産の付加価値(VG)は政府の営業余剰(SG)+政府が支払った賃金(WG)として分配されます。現行のSNAでは政府余剰を認めませんから、政府のサービス生産の付加価値(VG)は政府が支払った賃金(WG)と等しいと認識されます。SGだけ低く認識されるということになります。

また、政府の最終消費支出(G)は、政府のサービス生産の付加価値(VG)+その生産のために購入された中間財の額と認識されます。したがって、政府のサービス生産の付加価値(VG)がSGだけ低く認識されているので、GもSGだけ少なく認識されます。

(2006年12月31日追加)

すぐ上の「政府の最終消費支出(G)は、政府のサービス生産の付加価値(VG)+その生産のために購入された中間財の額」の説明を行っておきます。

このような取り扱いの基礎になっているのは生産された政府サービスは、中間財としては用いられないというものです。民間の生産したものは政府サービスの生産のための中間投入として用いられると考えられています。

民間部門での産出(OUTPUT)、販売額をOP、政府部門のそれをOGとします。これから中間投入を差し引いたものが付加価値です。

民間部門の生産のための中間投入をMP、政府サービスの生産のための中間投入をMGとします。

今、民間の産出される財・サービスの総額(OP)を考えます。これがすべて販売されます。そして、中間投入の代金を支払った後残るものが付加価値です。したがって、産出(販売)額(OP)=付加価値(VP)+この部門で用いられる中間投入(MP)となります。需要は中間投入として用いられる部分(MP+MG)と民間部門の最終支出(C+I)からなります。

すると、

OP=VP+MP=MP+MG+C+I   (1)

となります。

これは、民間部門の産出物が、中間投入物として使われるか、あるいは投資、最終消費に用いられるかということを意味しています。

次に、政府サービスの産出(販売)額はOGで、これはこの部門で発生する付加価値(VG)と中間投入(MG)と同じ額です。

OG=VG+MG

です。

政府サービスは中間財としては使われませんから、販売は政府最終消費支出(G)のみです。

すると、

OG=VG+MG=G       (2)

となります。この(2)式が「政府の最終消費支出(G)は、政府のサービス生産の付加価値(VG)+その生産のために購入された中間財の額」を示すものです。

これで矛盾が生じないかどうか検討しておきます。

(1)、(2)を足すと、次のようになります。

OP+OG=VP+VG+MP+MG=C+I+G+MP+MG  (3)

(3)式の第2項、第3項からMP+MGを差し引くと、こうなります。

VP+VG=C+I+G   (4)

これは付加価値総額(≡国内総生産:GDP)=国内総支出(GDE)を示しています。

矛盾は生じていません。

(2007年1月1日)産出を表す記号をPからOに変えました。

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