一部門、固定係数生産関数による日本経済の現状の分析の試み その2

一部門、固定係数生産関数による日本経済の現状の分析の試み その1」で示したモデルの特性を考えます。

このモデルではモデルの外で決まる需要が経済成長に決定的な影響を与えます。

もし、ある期に需要が十分に大きく、すべての労働者が雇用されると、次期の労働供給は(1+C+BE―DE)倍になります。この期も十分な需要があれば、やはり同じ率で労働供給は拡大します。したって、需要が十分あるという条件の下では経済成長率はC+BE―DEとなります。効率労働単位で測った労働力供給も同じ割合で成長します。また一人当たり生産は、Cで増加します。つまり、このときにはソローモデルと同じような均斉成長が達成されます。

これは、このモデルでは理論的にはありうる経済成長に対する需要制約が現実には働かず、またその結果、内生化されている労働供給がその最大値で固定されるためです。

ソローモデルが当時説明した現実の一部は、需要が高い水準で維持されていたことによるものかもしれません。

反対の極、需要が全くないケース、A(t)=0、を考えます。この期にはすべての労働者が失業しますから、次期の効率労働単位で測った労働供給は(1-DU)倍になります。需要ゼロがずっと続けば、最後には労働供給もゼロになり、そこで定常状態、ゼロ生産、になります。労働供給が一旦ゼロになってしまうと、需要が発生しても、生産はできなくなりますから。

効率労働単位で測った労働供給を一定に保つためには、効率労働単位で測った失業率を(C+BE―DE )/(C+BE―DE+DU )とすることが必要です。これを定常失業率と呼ぶ事にします。(この用語が適切なのか、自信がありません。)このような状態を保つためには、労働供給量に(1-定常失業率)を掛けたものに見合う需要を確保する必要があります。これをゼロ成長需要と呼ぶことにします。逆にいえば、需要がこの水準で一定であれば効率労働単位で測った労働供給、現実の雇用量が一定で、定常状態を続けることになります。

ただし、もし、前期に雇用され労働能力を上げることのできた労働者が今期も雇用されることになれば、人数で見た失業率は徐々に上昇します。また、労働者間の労働能力格差が大きくなって行き、効率労働一単位あたりの賃金が一定であれば、勤労所得の格差は拡大していきます。

定常失業率とさまざまな率との関係は次のようになります。

雇用された場合の労働能力の向上率が低ければ、定常失業率は低い。

雇用された労働者の出生率が低ければ、定常失業率は低い。

雇用された労働者の死亡率が高ければ、定常失業率は低い。

雇用されない労働者の死亡率が高ければ、定常失業率は低い。

すべて、望ましくないことが起こるほど、定常失業率は低いと言うことです。これを逆に読むと、適切な需要面からの成長促進が図られないまま、供給面の改善(労働能力の向上)、人口動態の改善(出生率の引き上げ、死亡率の引き下げ)が行われれば、失業問題が深刻化することを示唆するものです。

なお、以上の説明から明らかなとおり、この失業率はフリードマン的な自然失業率とは全く別のものです。

さて、現実の需要がゼロ成長需要を上回ると、効率労働単位で測った次期の労働供給は増加します。逆に下回れば、効率労働単位で測った次期の労働供給は減少します。

このモデルでは、経済の斉一的な成長(ゼロ成長の定常状態を含みます。)をもたらす均衡が少なくとも二つはあります。ソローモデルでも生産関数の形状を少し工夫すれば均衡を二つ以上作ることは可能ですが、このモデルでは労働供給が内生化されているので、極めて単純な生産関数の下で複数の均衡が生じます。

高い成長率、労働者一人あたりの生産を上げるためには、財に対する需要を完全雇用に見合う高い水準とし、高い成長によって高い率で増加する効率単位で測った労働供給にあわせて拡大し続けることが重要です。この点、自然に最大の成長率が達成されるソローモデルとは異なります。また、政府が投資率を変えることによって供給側から黄金律を満たすようなソローモデルとは全く違う政府の役割が見えてきます。

一度この水準を下回っても、その後、成長率を回復させることは可能ですが、その成長率には上限がありますから、経済の規模を可能であった最大値に復帰させることはできません。

もし、財に対する需要が低ければ、それは効率労働単位で測った次期の労働供給を低い伸び、あるいは減らすことになり、経済成長を抑制します。労働供給を内生化したモデルでは、財市場の需要と労働市場の供給は不可分なのです。これもソローモデルとは異なります。

財市場では需要制約がないとし、かつ労働市場では長期的には自然失業率が維持されるとする多くの新古典派的なモデルで、労働供給を外生とすると、技術進歩や資本蓄積だけが均衡経路に影響することになります。短期的な需要の変動が、経済の長期的パフォーマンスに影響を与えるルートが限定されているのです。

今回のモデルは、そういうものとはかなり違う結果をもたらします。

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